トラウマとは、ショックな出来事により起きたこころの傷のことです。
トラウマと呼ばれるほどのこころの傷とは、こころや体に悪い影響を与えるほど大きい傷であり、「生きづらさ」のもととなってしまいます。
トラウマには大きく分けて2種類があります。一つは、地震などの災害や事故、事件の被害にあったなどという「非日常的な恐怖体験」から起こるものです。もう一つは、子どもの頃虐待を受けてきた、性的虐待を受けてきた、いじめを受けてきた、夫婦間や恋人などパートナーから繰り返し暴言や暴力を受けてきたなどといった「日常的に繰り返されてきた体験」から起こるものです。
トラウマに対するカウンセリングは特に近年様々な心理療法が発展している分野です。「何をしてももう変わらない」と思ってきたことも、こころの傷を回復させることで大きな変化が見られます。カウンセラーと一緒に回復への道を歩んでいきましょう。
フラッシュバックといわれる記憶の問題です。
トラウマ記憶はふつうの記憶と異なり、時間が経っても薄らぐことがありません。視覚情報だけではなく、音やにおい、肌の感覚も伴うこともあり「その場にいるような」つらさを感じます。
自分の体験から自分が隔たっている感覚がします。
解離があると、自分の体験が思い出せなくなったり、今や過去の自分の行動がまるで他人のように感じられたり、世界の生き生きさが感じられなくなることがあります。
生き生きとした感じを取り戻すために性的に危険な行為や自傷行為などを繰り返すことがあります。
危険な場面では心拍が高まり、呼吸が短く速くなり、意識の覚醒が高まります。これは正常な反応なのですが、危機が去ってからも覚醒の水準が高まったまま、ドキドキしたり眠られなくなってしまうことは問題となってしまいます。
常に不安な状態が続くと、こころや認知だけではなく自律神経の不調や、体の極端な疲れといった体調不良という問題が出てくることもあります。
トラウマはとてもつらいものですから、トラウマを思い出させる場面や考えを避けようとしてしまいます。それを回避といいます。
トラウマに関する話題を避けようとすると、だんだん話すことや人と会うこと自体自体を避けるようになります。その場所を避けようとすると、だんだんと家から出ること自体を避けるようになってしまいます。
回避が強くなってくると、日常生活を送ることが困難になってしまうこともあります。
トラウマがあると、自分や他人、周りの物事を適切にとらえることが難しくなってしまいます。
トラウマにより感情や認知の問題や回避や解離により行動の問題があると、人間関係も不安定になりがちです。
周りの人との「適切な距離」がうまくわからずに、人を遠ざけすぎたり、近寄りすぎたりして、安定した関係を作り上げることに困難を感じることがあります。
トラウマによって傷ついたこころを回復させていくためには、脳・体・生活リズム・社会との関わりにはたらきかけていくことが必要です。時間をかけながら、自分でできるケアと、専門家の助けを借りる心理療法を組み合わせることで、回復への道を歩むことができます。
「自分の回復する力」はトラウマからの回復にとって大切な要素です。そして、こころにとって、脳と体を整えリラックスさせることは役に立つことです。
リラクゼーション、マッサージ、落ち着いた生活習慣、安心できる対人関係、気分を落ち着かせるアイテム。自分を知り、良いことを習慣づけようとすることで、トラウマに対して回復しやすい状態にしていくことができます。
近年、トラウマの研究が進むことによって、トラウマに対し有効な心理療法がいくつも開発されています。脳・体の感覚・認知・体験への暴露・生活への介入など、その心理療法によって強調する点は異なりますが、トラウマの回復に効果が期待できます。
話をすることは病気や問題に直面したときの対応として、いちばん大切なことです。
苦しいときほど話しにくくなってしまいますけれども、話をすることによって「自分の状態に気づく」「いろいろな援助のアイディアを聞ける」「助けを求める」など、さまざまな良い効果が期待できます。
「ブレインスポッティング」は2003年にデイビット・グランド博士によって開発された心理療法です。視線(注意)と体の感覚を共に用います。視線の反射を利用して、脳の深い部分に働きかけ、トラウマの軽減・解消や様々なパフォーマンスの向上を図ります。
トラウマの解消。解離性障害。心的外傷後ストレス障害。痛みへの対応に効果が期待できます。
ボディ・コネクト・セラピーとは、藤本昌樹先生により開発された、新しい心理療法です。これまでの効果のあった心理療法のエッセンスに新しい概念を加えて考え出した、身体から働きかける心理療法です。
トラウマは、脳だけでなく身体にも残されています。身体感覚に注意を向けることで、脳と身体をつなぎ、タッピング、眼球運動、アファーメーション(セルフイメージを肯定的にする)などを用いて、トラウマを身体から解放していきます。
自分の中にある考え方を変えていく心理療法です。
強く落ち込んだり、うつ病になると、自分のことや周りのことを落ち着いて考えることが難しくなります。「自分が悪い」と考えたり、「これからいいことは何も起こらないんだ」といった「ものごとのとらえかた」=「認知」に働きかけるものが認知療法です。
行動療法の一つ、エクスポージャー(曝露)療法の長い歴史から生まれた心理療法です。
カウンセラーとともに、トラウマ記憶に触れる心理療法です。繰り返し「今」起こるトラウマ記憶を曝露の手法によって「過去」のものとすることができます。
<出典>
エビデンスに基づくカウンセリング効果の研究 ミック・クーパー 著
解離 若年期における病理と治療 F・W・パトナム 著
体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著
発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療 杉山登志郎 著
ブレインスポッティング入門 ディビッド・グランド 著
トラウマのことが分かる本 生きづらさを軽くするためにできること 白井美也子 監修